薔薇ノ木ニ薔薇ノ花サク ナニゴトノ不思議ナケレド

投稿者
木本朱夏


薔薇ノ木ニ薔薇ノ花サク ナニゴトノ不思議ナケレド 北原白秋

 
浅田次郎のせいで今年わが家の庭に薔薇が咲かなかった。バラ用の土も肥料も用意してあとはバラの苗を買ってくるだけだった。なのに出来なかった。浅田次郎のせいだ。 ? ? ?
浅田次郎著『蒼穹の昴』『中原の虹』『珍妃の井戸』『マンチュリアン・リポート』全10冊を一気に読んだ。バラを植えなくちゃ・・・植えなくちゃ・・・植えなくちゃ・・・。気にしながら本の誘惑に負けてしまった。 読み終えたときバラを植えるには遅すぎる・・・ような気がした。 浅田次郎のおかげで中国の近代史が少し解った・・・ような気がする。
よそ様のバラを見ながらいつも憧れていたバラの咲く庭。幸せの象徴、バラの園。
「秋バラなら間に合うよ・・・」陰の声がしたような・・・。
令和元年、見送ってしまった美しい五月、バラの季節・・・。

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どんなもんだとアインシュタイン舌を出す

投稿者
油谷克己


どんなもんだとアインシュタイン舌を出す 澤井敏治

ブラックホールは、物理学者アインシュタインの一般相対性理論を基に約百年前に予言されていたが、周囲の現象などから間接的に観測することしか出来なかったそうだ。日本の国立天文台を含む約80研究機関の200人を超すチームが2012年に結成され、電波観測の結果、4月10日、M87銀河のブラックホールの撮影に成功したと発表された。オレンジ色に輝くリング状のガスの中に、黒い穴が浮かび上がった写真が朝刊の一面を飾った。リングの直径は1,000億km。気の遠くなる話である。

アインシュタインといえば、あの舌を出した写真が有名である。天才と狂人は紙一重とかいわれるが、アインシュタインのあの写真を見る限り、偉大な物理学者というより、いたずら好きなおじいちゃんを想像してしまう。それがどんな頭脳をされているのか、100年も前に、ブラックホールの存在を看破していたとは、正に世界が誇る偉大な人物の上位に位置する人物であったと得心が行く今回の快挙である。いたずらっぽい顔で、どんなもんだと長い舌を出しているのだろうなと思うと、ほほえましさが湧いてくる。
愛すべき人物像が、この句から感じとれる。

(川柳わかくさ5月号より転載)

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…早送り…二人は……豚になり終

投稿者
秘まんぢ


…早送り…二人は……豚になり終  川合大祐

 
一瞬だが、これは無季俳句として通用するかもと思った。切れもあるし、字数もととのった写実の句。がご覧のとおり「・・・」が厄介で、俳句は言葉にならないものは全て詠嘆とみなされる。もちろんそうでないことは「早送り」でわかる。
川柳にせよ俳句にせよ、わたしはギリギリまで攻めている句が好きだ。いわゆる実験句。辺境を求め、断崖を歩き、おのれの影にすがるような17文字の詩が好きだ。
そして「終り」でも「終る」でもなくて「終」。この超現実の表記こそがわたしを打ち負かした。そうだった、川合大祐の川柳はみじんも俳句ではない。どころか川柳以外に居場所はない。
わたしは太った豚にすぎない。痩せた狼にあこがれつつ「終」で〆る才も勇気もなしに、だまって子規のうしろを歩くのである。

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真夜中に慈しむ雨われを抱く

投稿者
慈雨


真夜中に慈しむ雨われを抱く 慈雨

 
抗うつ剤と抗不安薬を飲んで寝ると、脳は起きているのに体は眠くて動かない時がある。真夜中だということは分かる。そんな時はもうエアコンの風の音なのか、それとも外の雨音なのか分からなくなっている。車が道路の水をかき分けて走っているのが聞こえる。これ以上何もかも悪くならないような気がする。安心して眠れと抱くような雨がわたしは好きだ。そうして夜雨が降り止む頃、外が白んで、山鳩が無神経にホーホー、ホホーと鳴き出す。この先どうなるかなんて、まだ誰にもわからないのだ。

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思春期のドア闇雲に静電気

投稿者

思春期のドア闇雲に静電気  糸篠エリー

 
毎週web句会第163回入選平抜き止めの句。
最近になって自身もネット投稿を始めながら、この句会には私の理解を超える作品も散見されますが、本作は最初にビビッときたものです。

恋か革命か。思春期特有の、自我に目覚めつつ、まだ世間との折り合いをうまくつけられないでいるために生じる「トラブル」を、鮮やかにかつコミカルに切り取っていると思います。ドアが片仮名、闇雲が漢字なのも効果的。

当事者にとって思春期は必ずしも「輝いている」ものではないのですが、こうして生き残って過去を振り返ってみると、いたましくも懐かしく思い起こされるものであります。

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