塩水の理由を知ってからりんご

担当:文切 塩水の理由を知ってからりんご
森山文切

りんごは皮をむいてそのままにしておくと変色してしまう。
りんごに含まれるポリフェノールが空気に触れると酸化酵素が働き、酸化してしまうためである。
塩水に浸けるとポロフェノールの表面にナトリウムイオンが付着するため、酸化を抑えることができる。

りんごは、このことを知っているだろうか?

何も知らずにしょっぱい塩水に浸けられているとしたら、りんごにとってはただの拷問である。
しかし、「酸化を防ぐため」という理由をりんごが知っていれば、塩水も受け入れられるかもしれない。

辛いことばかりの世の中だけど、その辛さが自分にもたらすことを知って初めて、本物の「りんご」になれるのではないだろうか。

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足の裏から女ひとりのものがたり


担当:奏子

足の裏から女ひとりのものがたり
森中惠美子

2人の子供達はもう成人で、妻はずっと専業主婦。妻は夫が浮気をしている事を知っているが誰にも相談できずに日々を過ごしている。
ある日、ママ友に「ねえ、カカトとかちゃんとこすってる?」と言われて自分の足の裏と向き合う。
妻役は黒木瞳。何年も前の映画のワンシーンだ。
平等に二本足で生きて、足の裏までチェックされる。女とは何と不平等な生き物なのだろう…。
スーツにパンプスの女。
ハイヒールを鳴らす女。
野良仕事の女。
前後に子を抱き歩く女。
裸足の海女。
100人の女に100の足の裏、そして100のものがたり。
当たり前かもしれないが、私にも1つのものがたり。
あなたの足の裏にも輝くものがたり。

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三角を積んだら上が狙えない


担当:智史

三角を積んだら上が狙えない
藤井智史

何もないところから、色々な経験を積んで、成功を納める。

「よしっ、もう何もしなくて大丈夫だ」と思うかもしれないが、私に住み着いている虫は、「もしもし、明日からそれで良いですか。安心は、保証されていません」と私の心に囁いてくるのだ。

そうだ、私は、チャレンジャー。安心などできぬ。

だから、一生三角を積むことは無いだろう。

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次の人どうぞと穴が呼んでいる

担当:文切 次の人どうぞと穴が呼んでいる
髙瀨霜石

道端に穴がある。
「 ・・・ ・・ 」
穴から何か聞こえる。
「 ・・・ うぞ 」
他の人は何事もないように通り過ぎていく。聞こえていないのだろうか?
おそるおそる近づいて聞いてみる。
「次の人どうぞ」
次の人どうぞ?何の順番だろう?
「次の人どうぞ」
「・・・わ、わたしですか?」
「次の人どうぞ」
「わたしですか?何をしているのですか?」
「次の人どうぞ」
どうしよう。厄介なものに捕まってしまった。他の人のように無視したいけど、体が勝手に穴に近づいていく。
「次の人どうぞ」
どんどん穴が近くなる。
「次の人どうぞ」
穴はもう目の前だ。
「次の人どうぞ」
「次の人どうぞ」
「次の人ど・・」

「次の人どうぞ」

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紫陽花も君も魔法にかけて雨


担当:奏子

紫陽花も君も魔法にかけて雨
栃尾奏子

晴れた日の紫陽花は、大柄で頭でっかち、何だか自己主張の塊が咲いているようだ。

そして、君も、何て我が儘で気が利かず、さっきから空気が読めないんだ・・・。

長く付き合っていると、良いところだけではなく、欠点も見え過ぎて困ってしまう。

中庭の紫陽花をデッサンしている君を呼び出して、校舎裏で告白したのはいつだったろう。

口論寸前のデートに大粒の雨。
土砂降りだ。
雨宿りした花屋には紫陽花、紫陽花、紫陽花。6月だもんな。
タダで出るわけにも行かず、僕はびしょ濡れの額を拭い、紫の紫陽花を手に取った。
「待って。買うなら青にしましょうよ。」
そうだ。あの日、君が描いていたのは青い紫陽花。デッサンは白黒だったけど。

雨に濡れた紫陽花と君は、さっきまでとはまるで違う表情で僕を見つめていた。

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