春はお祭り人も獣も巻き込んで


担当:奏子

春はお祭り人も獣も巻き込んで
栃尾奏子

ドアを開ける。

息を吸う。
何だろう、いつもと少し違う。
自転車に乗り、ペダルをこぐ。
頬が、耳がくすぐったい。

そうか。春だ。

胸が高鳴る。なんとも言えない高揚感が全身を駆け巡る。

そうだ。春だ。

恋人とのキスでさえ、重ねるごとにドキドキが薄れてゆくのに。
春は何度迎えても、変わらず僕をドキドキさせる。

待ち合わせの公園では鳥が、猫が、虫達が、それぞれに春を出迎えていた。

ベルの音。振り向くと自転車に乗って手を振る君。
薔薇色の頬。
君もまた、春を出迎えたのだな。

物言わぬ春が、命あるもの全てを巻き込んで行進していく。
春を先頭に愛と命のパレードが始まる。

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