次の人どうぞと穴が呼んでいる

担当:文切 次の人どうぞと穴が呼んでいる
髙瀨霜石

道端に穴がある。
「 ・・・ ・・ 」
穴から何か聞こえる。
「 ・・・ うぞ 」
他の人は何事もないように通り過ぎていく。聞こえていないのだろうか?
おそるおそる近づいて聞いてみる。
「次の人どうぞ」
次の人どうぞ?何の順番だろう?
「次の人どうぞ」
「・・・わ、わたしですか?」
「次の人どうぞ」
「わたしですか?何をしているのですか?」
「次の人どうぞ」
どうしよう。厄介なものに捕まってしまった。他の人のように無視したいけど、体が勝手に穴に近づいていく。
「次の人どうぞ」
どんどん穴が近くなる。
「次の人どうぞ」
穴はもう目の前だ。
「次の人どうぞ」
「次の人どうぞ」
「次の人ど・・」

「次の人どうぞ」

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紫陽花も君も魔法にかけて雨


担当:奏子

紫陽花も君も魔法にかけて雨
栃尾奏子

晴れた日の紫陽花は、大柄で頭でっかち、何だか自己主張の塊が咲いているようだ。

そして、君も、何て我が儘で気が利かず、さっきから空気が読めないんだ・・・。

長く付き合っていると、良いところだけではなく、欠点も見え過ぎて困ってしまう。

中庭の紫陽花をデッサンしている君を呼び出して、校舎裏で告白したのはいつだったろう。

口論寸前のデートに大粒の雨。
土砂降りだ。
雨宿りした花屋には紫陽花、紫陽花、紫陽花。6月だもんな。
タダで出るわけにも行かず、僕はびしょ濡れの額を拭い、紫の紫陽花を手に取った。
「待って。買うなら青にしましょうよ。」
そうだ。あの日、君が描いていたのは青い紫陽花。デッサンは白黒だったけど。

雨に濡れた紫陽花と君は、さっきまでとはまるで違う表情で僕を見つめていた。

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旅先の枕に語る未来像

担当:文切 旅先の枕に語る未来像
森山文切

私が川柳を始めた2014年、鳥取県川柳大会に欠席投句し、入選した句である。
選者は父の森山盛桜だった。
欠席投句したことは伝えていなかったので、披講のとき驚いたようである。

後日父から、「今後自分が選者の題には当日投句、欠席投句に関わらず投句しないでほしい」と言われた。
選者は万が一にも疑われるようなことがあってはならないというポリシーらしい。
母もたまに川柳大会に参加しているが、父の選には投句していないとのこと。

「森山盛桜の選でおかしいと思われるような句は抜かんだろ」と言ってみたが、
「すべての人が選者と同じ感性で句を読むわけではないのでダメ」という答えだった。

これ以来、父の選には投句していないし今後も多分しない。
したがって、この句が森山盛桜選で入選した唯一の森山文切の句ということになりそうだ。

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恋愛も風林火山かもしれぬ


担当:智史

恋愛も風林火山かもしれぬ
藤井智史

疾きこと風の如く
徐かなること林の如く
侵掠すること火の如く
動かざること山の如し

恋愛に関して、

静かに待ったり、動かずに様子を見たりすることは、間違いなくできている。

どうも、素早くふさわしい人を探したり、燃えるような恋をすることは、未だにできていない。

風林火山のバランスがとれたとき、きっと恋愛成就するだろう。

次の一句を私の目標としたい。

山は去り烈火の如く恋をする  藤井智史

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貝殻の白は海には染まらない


担当:奏子

貝殻の白は海には染まらない
真島凉

地球の表面はほぼ海だ。
海は果てなく、広く、深く、気をぬくといつでも飲み込まれそうだ。

もし、小さな貝殻が自分だとしたら、何と強い意志が必要なのだろう。

流されてしまうほど楽な生き方はない。
流されたのはまわりのせいだ!と言えば自分さえ納得させられるだろう。
でも、この貝殻は、染まらないという選択肢を選ぶのだ…。

荒波にもまれ、クジラに飲み込まれ、岸壁に打ちあたっても、この貝殻は白であるだろう。

白であり続けようとする一途さは純粋で尊い。

作者は12歳。
多感な思春期、自分の求める白であり続けて欲しい。

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