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時刻表閉じると海は消えていた

担当:文切 時刻表閉じると海は消えていた
本朱夏

楽しいひとり旅だった。

田舎の雰囲気に惹かれ、ずっと来たいと思っていた場所。
忙しい日々の中ようやく時間を作ることができた。
 
駅員もいないローカル線の駅からは、さっきまでわたしがいた海が見える。
何時間も眺めた気持ちのいい海に夕日が沈もうとしている。
 
なんてきれいな海だろう・・・
 
いけないいけない、乗り継ぎの電車を調べるんだった。
うちに帰るまで何度も乗り継がなければならない。電車の本数が少ないので逃すと帰れなくなってしまう。
この駅は○○分発で、XX駅で乗り換え、その次は・・・ 、あっ、ここは間が3分しかないのか。で次が・・・
 
一通り調べ終えて時刻表を閉じると、辺りはもう暗くなっていた。
夕日に輝いていた海が、わたしの海が、消えてしまった。
もう、帰らなければならない。うちに着くのは夜中。明日からまた仕事だ。
 
時間を作って、必ず戻って来よう。
時刻表を開けば、きっとまた、わたしの海が現れるはずだから。

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実りある全没でした頑張ろう


担当:智史

実りある全没でした頑張ろう
藤井智史

「ああ、やってしまった。」

一度も呼名することなく、川柳会場を去る。

「何の為に、ここまできたのだろう。」

悲しみと悔しさを噛みしめ、家へと戻る。

川柳から離れると思いきや、祖母譲りの負けず嫌いのせいか、すぐに句を作りだす。

全没を忘れるかのように…。

一か月後、大会誌が届く。

もちろん、私の句は載ってない。

他の人の優秀な句を拝見し、自分に足りなかったものを吸収する。

大変勉強になる。

復習を行い、次の大会に向け、川柳の道を突っ走るのであった。

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6月の種を神様からもらう


担当:奏子

6月の種を神様からもらう
真島芽

6月の種とはなんだろう。

待ちわびた雨季を迎え、一斉に芽を出す命だろうか。

純白の衣とヴェールを、喜びと期待、少々の不安で揺らしながら契りの時を待っている花嫁か…。(ジューンブライド)

長雨に気分もブルー。運動場も、自転車も、公園も使えない。そんな時に神様から届いた、お楽しみなのか。

読むたびに七色に読み取れて、なんとも味わい深い。

一読した時は、6月が動くのでは?と考えたが、1、3、7、8、10。
順番に入れてみても、動かない。

6月を入れて初めて、この句が輝き出す。

素晴らしい。

そして驚くことなかれ、この句の作者は
10歳の少女である。

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ひとつだけ真新しいガードレール

担当:文切 ひとつだけ真新しいガードレール
森山文切
ある日、車を運転していたところ、カーブに設置してあるガードレールがひとつだけ新しいことに気が付いた。
新しいガードレールの下には、花束が置かれていた。
事故があって誰か亡くなったのだろう。
 
真新しいガードレールもいつかは古くなって、他のガードレールと同じになっていく。
このカーブも多くの人にとってはただのカーブになるだろう。
でも亡くなった人の家族にとっては、恋人にとっては、友人にとっては、そうではない。
多くの人にとっての「普通」が「普通でない」人もいる、そのことを強く感じた瞬間だった。

大型連休です。みなさま安全運転を。

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失恋の傷にお酒を吹きかける


担当:智史

失恋の傷にお酒を吹きかける
藤井智史

「ああ、またか。」

あるときは真っ正面から、またあるときは斜めからブスッと、お別れのメールが来る。

「お陰様で傷だらけだわ。」
「ワタシって、そんなに魅力がないかな。」

努力して自分を変えようとしても、全然違うところから切りつけられる。

しかし、傷が浅いのか、酒や赤ワインや芋焼酎を傷口に吹きかけると、あら不思議、死なぬではないか。

それでも、傷は多くなるばかりである。

「 この傷を癒してくれる人が、きっと居るはずだ。」
そう信じ続けよう。

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