死顔の美しさなどなんとしよう

投稿者
木本朱夏

死顔の美しさなどなんとしよう 時実新子

 
訃報は突然にやって来るものだが、彼女のそれは余りにも突然だった。
「余命一カ月」と宣告された。膵臓がんだった。帰宅してすぐ二人の子どもそれぞれに長い手紙を書き、身辺を整理したという。彼女はまだ50代だった・・・・・・。
告別式の写真に既視感があった。一点の曇りも無い明るい笑顔、洋服はコバルトブルーに白い水玉模様の遺影。何かの会合で私が撮ったスナップの一枚だった。彼女が自ら用意したとご遺族に伺った。人は生きて行くのにこんな明るい春の日に、自分一人が旅立ってゆくのだ。どんな思いでアルバムを開いたのだろう。無念だったろう・・・・・・。 あれから20年。私にはまだ遺せる一枚が無い。

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