牧野芳光ミニ句集「流れ雲」
牧野芳光(まきのよしみつ)
鳥取県倉吉市大原637-3
昭和23年3月15日生
川柳塔社同人
新日本海新聞社柳壇選者
打吹川柳会会長
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定年退職十年前に、川柳と油絵のどちらを選ぶのか考え油絵100枚を描くか川柳1000句を創るかの間で、先に芽が出たものを続けようかと考えた。
川柳が先に芽を出したので川柳をすることにした。
桐の花
親知らずポトリと抜けて春が来た
桐の花母が笑ったように咲く
嘘は許さぬ真っ白い梨の花
桜からさくらになって語りだす
コンクリートの岸は童謡歌わない
ニアミスになろうなろうとする言葉
失敗の味は忘れぬフキノトウ
春うららこんないい日に救急車
群青の何かが足らぬ空の色
スキムミルクくらいの恋を待っている
空耳を信じて愛を打ち明ける
人間がいるから神は忙しい
どの子にも翼をつけて送り出す
私のどこを食べてもトウガラシ
ひそひそと時が溜っていくカレー
丘の上に母が忘れた鍬がある
日本人の血は味噌汁で出来ている
人間が手を合わす時神がいる
マトリョーシカ
母の手の届く高さのタオル掛け
片目つぶればこの世がちょっと好きになる
恋人の胸にマトリョーシカが棲む
紫の雨になったら逢いに行く
手に触れた言葉が森になっていく
たおやかな形とかりそめの時と
虫の命囲む蟻蟻蟻がいる
コーヒーにこだわるほどの自我はない
守る物はあるか胡瓜と茄子の棘
時々はここにいるよと棘を出す
鬼灯を鳴らせないまま歳をとる
胸の穴にピッタリはまる仏の子
地獄よりましな地獄へ避難民
たいていは本物になる前に死ぬ
しがらみを切って寂しくなってくる
夕暮れにぼんやり浮いている明日
茄子の花
コオロギの声が日に日に透き通る
雑念があるのか喉がよく渇く
茄子の花少子化はまだ続くのか
ウラシマ草咲いた微罪を引き摺って
さよならはバナナの皮を剥くように
土鍋の底で祭り太鼓の音がする
迷い解け指の太さは隠さない
咆哮の底に男が残される
悲しみを溜めてマリモになっていく
見つからぬようジャガ芋の中にいる
雪と一緒に悲しみを捨てる川
人間の臭いぬめりになっていく
足の裏から風邪をひくお葬式
言い足りぬ言葉 袱紗に包み込む
非常口抜けると未来への扉
幸せのちょっと隣で生きている
(平成29年8月30日掲載)
三津子さんへ
見ていただいてありがとうございます。
三日くらいかけて、今までの句の中から後先も考えずエイヤッと
50句寄せ集めました。
こちらこそ、三津子さんの句から目のウロコを落しています。
ミニ句集「流れ雲」おめでとうございます。
消化不良起こさず、真っ直ぐ心に届く句が芳光さんの深さですね。
コオロギの声が日に日に透き通る
コオロギの声で山陰の秋の短さを表現されている この句が好きです。
これからもご指導宜しくおねがいします。