森山文切ミニ句集

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森山文切ミニ句集「こねくしょん」

森山文切 (もりやまぶんせつ)
沖縄県川柳協会所属
川柳塔社同人
川柳塔webサイト管理人
毎週web句会主催者

PDF版:下の画像かここをクリック

はじめに  
 34歳で川柳を始めました。何事も形から、論理的に入るタイプです。川柳を始めると決めた時いろいろと調べたところ、川柳は「客観の文芸」で、上達には多読多作が必要であるとわかりました(と当時は思った)。「客観=主観以外の全部又は一部」であるので、川柳が客観の文芸であるならば、まず主観から固めなければならないと考えました。多読と多作、どちらが主観を固めるのに必要かといえば、多作でしょう。一体どのくらい作れば多作なのかさっぱりわかりません。適当に一万句と決めました。年間千句で十年。「よし、最初の十年で多作により主観を固め、次の十年で多読により客観のなんたるかを理解し、二十年以降が勝負だ。二十年 経ってもまだ54歳だから、それから勝負しても川柳界では十分若いだろう(父が40年近く川柳をしていたので漠然とではあるが川柳界のイメージは当時からあった)。」
 当時立てたこの目標は、川柳を始めて数年経った今も生きています。「客観のなんたるかを理解し」の部分は一生かけても無理な気がしていますが、とにかく一万句作ってから次の目標を考えたいと思います。次のページにこれまでの作句数を記載しますが、一万句にはまだまだです。前述のとおり主観を固めることを意識して作句したものが多いです。したがって、独りよがりと感じられる句があるかもしれませんがご容赦ください。

平成29年5月10日  森山文切 

本句集データ
作句期間 平成26年5月から平成29年4月
期間中作句数  4510句
期間中投句数  2862句
期間中発表句数  856句 (選のあるなし問わず、何らかの形で世に出た句数)
本句集掲載句数   50句

略歴
昭和54年 鳥取県生まれ。
平成11年 大学進学を機に沖縄県に移り住む。
平成26年 川柳を始める。
平成27年 川柳塔社同人になる。川柳塔おきなわ準備室β版の公開を開始
平成28年 川柳塔WEBサイトの管理人になる

平成26年
伝線のままの働きすぎた足
内側の方が汚れているガラス
本能に従い黙る縫いぐるみ
コーナーに立って遠心力を待つ
吊り革を眺め老いさらばえて行く
売人の舌が並んでいる市場
流れ着くだろう助けるまでもない
孤立している指舐めたい衝動
私以外が順に消えゆくゲーム

沖縄の海を抱いたままでいる

平成27年
寝過ごしたようです空が新しい
暗い句ばかりが浮かんでくるベッド
豆ひとつには広すぎるわたしの手
塩水の理由を知ってからりんご
垢という答えが枯れた体から
鰓呼吸できる男になってやる
扁平足だけで編成する部隊
米軍のフェンス内にも咲くデイゴ
どの花を舐めても同じ味がする
目を覆うための両手に成り下がる
わたくしの器に合ってきた歩幅
アラジンのランプを作る町工場
カーテンが揺れて養育費の話
置いた手が攻める形になっている
一斉に開く告別式の傘

平成28年
印影がずれてわたしに似てしまう
ツナ缶の中は幾何学的模様
死後の世界はカビキラーのにおい
胸元のタトゥーを舐められる女
圧力をかけたら腐り出すレタス
罅割れた甕だが翼ならあるぞ
ヨウコのことで風船を割るヨウコ
だれかがわらった シャボン玉がわれた
せんよりもひだりはぼくがうごかせる
花がない方が自然である花瓶
弟が実るサキシマスオウノキ
わたあめの中でわたしだけのまつり
プルタブを引いたら見えるのが心
真下から洗濯物を見続ける
ドレミファソラシドこどもの志望校

平成29年
葬式へ向かう自動車道に霧
爽やかか問いただされているミント
たんぽぽが最前線に咲いている
粒状の愛しか与えられません
まるかいてちょんで終わっている日記
生真面目で裏返されている時計
はんぺんかたまごかすじか退職か
じいさんが解き放たれた色になる
明太子パスタもさくら色の春

たくさんの人と握手をした右手

あとがき  
 親のコネに頼るのが嫌いでした。父も母も顔が広く、田舎であることもあり、小さい頃からどこへ行っても親の影響を感じました。沖縄の大学に進学することにしたのは、親も親戚もいない土地で勝負してみたいという思いもありました。沖縄ではコネを最大限頼りました。沖縄でのコネは、親の力を借りず私自身が獲得したものだからです。  
 このような気質のため、川柳を始めることには少し抵抗がありました。 川柳をすることは、父を頼ることそのものだからです。私が川柳を始めたのは、私自身が父親となったことにより父への感情に変化が生じ、川柳への想いが私の気質を上回ったためです。川柳を始めると決めてからは、川柳塔社新家完司理事長をはじめ、父の人脈に頼りっぱなしですが、もうそのことに抵抗はありません。一度頼ると決めたら、最後までそのつながりを大切に最大限頼るのが、コネに頼る者の責任であるというのが私のポリシーです。  
 私の川柳活動はWEBが中心です。私が川柳を始めた当時から色々なWEBサイトがありましたが、文芸川柳のWEBサイトを取りまとめたポータルサイトはありませんでした。思いついたらまず行動する性格でWEBサイトの運営にも多少の知識はあったので自分でそれらしいものを作りました。このころ琉球新報で川柳欄の選者をされている大田かつらさんと出会い、かつらさん経由で琉球新報社から許可をいただき川柳欄のWEB掲載を開始し、沖縄での川柳活動も広がり始めました。  
 それから数ヶ月後、川柳塔社でWEBサイトの更新ができる人を探していると完司さんから連絡があり、川柳塔社WEBサイトも管理することになりました。川柳塔社、川柳塔おきなわ準備室の両方でWEB句会を実施し、多くの方々に投句者として、選者として、ご協力いただきました。WEBでの川柳活動は、私の想像を超えて広がっていきました。  
 父が盛桜であり川柳塔を中心に広く深い川柳人脈があったこと、私が沖縄で暮らしていてサイトを開設できる程度には知識があったこと、私が川柳を始めて間もなく、川柳塔社WEBサイトの管理人を交代する必要があったことなど、さまざまな事実とタイミングが重なって今に至ります。今後私と川柳のつながりがどう広がるか、私自身楽しみです。  

森山文切 

(平成29年5月17日掲載)

12 Comments

  1. 返信
    与那嶺 貞男 sa-yona@plum.plala.or.jp 2021年5月14日

    「米軍のフェンス内にも咲くデイゴ」が気に入りました。なにか俳句っぽく、私が考えている諧謔さのある川柳とは大分違った趣のある句ですね。私の句はただひたすらに、ひねた立場からだけで見ていたようです。素直な目で見る川柳もあったんだということを思い知らされました。素直さも強烈な皮肉という見方もできますが改めて考え直してみます。どうも有難うございました。

    • 返信
      森山文基 2021年5月14日

      コメントありがとうございます。
      心が動いた瞬間をそのまま切り取ったような句を意識して作っています。
      「素直な目で見る川柳」と言っていただけてうれしいです。
      今後もよろしくお願いいたします。

  2. 返信
    澤井敏治 2017年5月26日

    ◆この度は大変お手数をかけました。新家完司から「私は何もしていません。サイト管理人のおかげです。10月の川柳塔まつりに出席される予定ですので、お酒ガンガン注いで労をねぎらってあげてください。」とブログに。
    ◆さて、「こねくしょん」鑑賞。 /1⃣沖縄の日へ思いを込めて・・・◎米軍のフェンス内にも咲くデイゴ  ◎沖縄の海を抱いたままでいる /2⃣薫風先生の「ボーリング恋のライバル鏖」と重ねて・・・◎私以外が順に消えゆくゲーム /3⃣フィクションか近詠か・・・◎はんぺんかたまごかすじか退職か  ◎まるかいてちょんで終わっている日記 ◎だれかがわらった シャボン玉がわれた  ◎吊り革を眺め老いさらばえて行く /4⃣政治家にはならないでと願って・・・◎たくさんの人と握手をした右手 /5⃣二,三読させられた句・・・◎ヨウコのことで風船を割るヨウコ  ◎一斉に開く告別式の傘
    ◆もっと読ませてほしい。若い人が若い時に詠む・見る・感じることが知りたいのです。感謝 敏治  

    • 返信
      森山文切 2017年5月26日

      敏治さま

      コメントありがとうございます。企画倒れになることを一番恐れていましたが、早々に申し込みいただいて安心しました。
      しばらくは新規掲載が続くと思いますが、落ち着いたら2か月に1冊くらいのペースで更新していけたらと考えています。

      川柳塔まつりでお会いできますね。お酒ガンガン楽しみにしています。

  3. 返信
    ケンジロウ 2017年5月20日

    333句は新葉館出版の電子書籍の個人句集の大雑把な目安です。文切さんがこのまま作句して行き詰まらないかちょっと気にしています。なぜなら今、自分が川柳に行き詰まっているからです。川柳はあんまり真面目に勉強しない方がいいみたいです。

    • 返信
      森山文切 2017年5月20日

      ケンジロウさま

      コメントありがとうございます。わたしの川柳のモチベーションは、「新しい感性の新しい句が見たい」ということです。その句がわたしから生まれたものか、他の方から生まれたものかは、わたしには価値の違いはありません。

      webでいろいろとやっているのも、今まで川柳をされていない層の新しい感性の句が見たいからです。

      自分が作句者、投句者であり続けることにはこだわっていませんので、行き詰まったと感じるほど自分を追い込んで作句することはないと思います。

  4. 返信
    麦乃 2017年5月19日

    ケンジロウさまの率直なご意見、気持ちがいいですね。
    お若い森山さんの作品は私には難解なこともありますが新しい風をとても感じています。
    そういう意味では月波与生さんもしかりで、お二人の作品はよくわからないながらも面白く拝見させていただいています。
    これまでにない表現を模索中なのかと思います。ちょっと硬質でそれでも核の部分にいかに近づけるか全力でチャレンジしているように思えます。そこが魅力です。好き嫌いはともかく「お二人は要注意!」と勝手に思わせていただいて遠くより楽しく拝見させていただいています。
    これからも独自の世界を突っ走ってください。

    • 返信
      森山文切 2017年5月19日

      麦乃さま

      コメントありがとうございます。川柳の本質は、「肩のこらない句」にあるのかもしれません。
      しかしそれは、川柳をしている人全員がそのような句を作らなければならないということではないと思います。
      運営や選者としてあるべき姿勢と、作句者としての個人の姿勢は異なっていてもいいはずです。

      川柳には意味を重視する川柳とイメージを重視する川柳があると思います。
      私は作句者としてはイメージの川柳が好きです。
      言葉はあるイメージの範囲を指定するものであり、その組み合わせによって新たなイメージを創りだしたり、イメージを深めたりするのがイメージの川柳と捉えています。

      ここに記載しているとおり、一万句作るまでは自分の好きな句を作ることを重視していきます。
      その後の展開は一万句作ってから考えますが、現状は投句者としてはそこでペースを落として、webを中心に川柳の普及や仕組みづくりに力を入れていきたいなぁと思っています。

  5. 返信
    ケンジロウ 2017年5月19日

    文切さんの句を拝見しました。拝見してみて理屈で作っている句が多いなと思ったのが正直な感想です。硬い句を333句読まされたら誰だって疲れます。私は川柳塔では新家完司さんや高瀬霜石さんのような句が好きです。できれば、文切さんの肩のこらない句も読んでみたいです。生意気なことを書きましたがそれは私が生意気な人間だからです。では。

    • 返信
      森山文切 2017年5月19日

      ケンジロウさま

      コメントありがとうございます。掲載句は50句で、333句ではないですが・・・。

      はじめにに記載のとおり、一作句者、投句者としては現状共感を得ることはあまり意識していません。その点はご容赦ください。

  6. 返信
    麦乃 2017年5月19日

    益々のご活躍を期待しております。

    • 返信
      森山文切 2017年5月19日

      麦乃さま

      コメントありがとうございます。他の方のミニ句集も準備ができた方から随時更新していきます。
      ときどき覗いていただけたら幸いです。

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